『直江くんの写真って、いつも死ぬ間際の人間が撮る写真みたいでわくわくするんだよね』
自己を慮るばかりで彼女を顧みないでいた、誰かと生きる為に何かを譲ること、何かを掴む為に揺るがないでいるもの、逃げるでなく、切り拓いた開拓であること、全てが正しさを纏って今日も自分に手を振っている。わからないこともある。生きていて、掴めないことなんてほとんどだ。ままならない今日にそれでも縋りながら、時にこうして自分をわかったつもりで、もがきながら、抗いながら、そんな姿を美しいと思いながら、実際そうでもない人生に輝きを見出して、
明日の朝目覚めた時、どこかに逃げたい、帰りたいでなく、空を眺めて自分を奮い立たすことが一度でも出来たら。
「迷ってる人間の言葉はいつも不明確だから、ま、自問自答してるといいよ」
「なんで靴下を脱ぐんだ?」
「帰るから」
「帰る?」
「言ったでしょ、〝渡航〟」
海辺に着くや否や靴下を脱いで、浜辺を駆けて行く越野由環を慌てて捉えながら、走る。待て。これは、俺の妄想の世界じゃないのか。でもさっき手首を掴めた。俺の物語から通り過ぎた、現実。じゃあこれは。
「世惑う人魚を救ったから、直江さん、今日から貴方のツキは上がる一方だね」
浜辺を走り、海の中に容赦なく飛び込んでいった越野由環が半身を海から覗かせて笑っている。満足げに、自信に満ちた表情で、立派な〝尾鰭〟を海から覗かせて手を振る姿に思わずスマートフォンを落としたら、空の高いところで名前も知らない鳥が甲高い声で鳴いていた。
「…まじか」



