「姫、お待たせいたしました。」

姫野専属の運転手が車の扉を開く。
私が乗り込むと、大和が晶さんに夕方には戻りますと告げて乗り込んだ。

そしてすぐ車は出発する。

車は30分かけて住宅街を抜けて、海沿いを走ること1時間。

懐かしい。

10年ぶりの姫野の領地。

まさか、大和の彼女(彼女の予定)に呼ばれて姫野の領地に戻るとは。

大和も彼女には頭が上がらないようね。
早くくっつけばいいのに。

緊張かながらも、フッと笑みをこぼしてしまった。

「莉依、北園の資料だ。」

「えー、私まだ姫野継いでないのに見るの?大和のお父さんでいいじゃない。」

私の変わりに組長代理をしているのが大和のお父さんで、私の亡き父の弟の姫野奏希おじさまなのだ。

大和のお父さんは、私が戻るまで姫野の指揮をとってくれている人。
だから、私が資料を見なくてもいいじゃん。

「なんだったら、大和が継げばいいじゃん。」

頬を膨らませながら言うと、大和はすかさずツッコんできた。

「バカか。俺は分家の人間だ。本家の片腕としているんだぞ?無理に決まってる。」

ですよねー。
分かりましたよー。
見ればいいんでしょ?

私が不貞腐れながら窓の外を見ていると、大和が声をかけてきた。

「清宮で、何かあったか?」

「え?」

「お前が悩むときは、必ず窓の外を見る癖がある。現実逃避か?」

こいつは、変なところで勘が鋭い…。

何でいつもバレてしまっているんだろう。

「一週間前に、神永さんが何者かにヤられた。」

「は!?あの神永さんが!?」

信じられないと言う大和は、表情がものすごく不細工になってて、さらに清宮の右腕とも言える人がとブツブツ言っている。

「フードを被っていて顔は見えなかったみたいだけど、体格は神永さんと同じ難いがいいみたい。」

「こっちでも調べとくわ。」

「ありがとう。あと、そのフードの男が私に渡せってこの紙がきた。」

大々的に書かれた暗号と、下に小さく暗号を記された紙の画像を大和に見せる。

声に出さないが、目を見開き、驚いている。

大和も上層部の一員だから、すぐにわかったようだ。

その表情は、"絶句"がとても似合う。

この私でさえ、驚きを隠せないでいるのだ。