あの文の頭文字を取って並べると、一つの文が出来上がる。

"澤田に留意せよ。"

縦読み暗号は、澤田の常套句。

でも、何で留意しなくてはいけないのか。
両親と澤田には何があるのか。

澤田が何をするのか、鴻巣は知ってるの?
澤田の仲間…?

いや…そうだとしたら、留意せよなんて知らせるわけがない。

私が澤田の者ならそんなおかしな事はしない。

鴻巣は、私なら分かると知っていてこの文を送ってきたに違いない。

「嬢ちゃん、何か知ってるのか?」

口調を変えた有馬さんは、刑事そのもの。
真実を知りたいという気持ちの現れ。

でも、内容を知ったことを悟られてはいけない。

迷惑をかけないため。
誰一人として、傷つけないため…。

だから私は、1人で解決しなくてはと決意する。

「ごめんなさい…。何の事だかさっぱり。今は亡き父からも姫野と澤田のことは聞いてないんです。」

「そうか。何か解れば知らせてくれ。こっちも何か解ればすぐ知らせる。」

そう言って有馬さんは仕事に戻っていった。

きっと、翔ちゃんたちはこの文が何なのか調べるだろう。

そして、私のために動くことは明白だわ。
…でもそれは、清宮に迷惑をかけることになる。

これは姫野である私の問題。

でも、そう考えていても身体は正直で震えてしまう。

正直、怖い。
この先何が起こるのか。

誰かが犠牲になるのか。
その誰かは、私かもしれない。

だけどその前に鴻巣が何者なのか、一体、何を考えているのか真実を見つけなければ。

「莉依、身辺には充分気を付けろよ。」

「…うん。」

私は何も知らなかった。
この後に訪れる闇に、私は更に闇に落とされていくことをー…。