話しが終わるかと思いきや、有馬さんは悩ましい顔でとある人物の話をする。

「この話とは別件で、報告があってな。」

お茶をすすりながら言葉を続ける。

真剣な顔すぎて、心配になる。
どうしたんだろう?

「鴻巣が退職したんだ。」

た…退職!?

何かやらかしたの?

今日いなかったのは退職したからか…。

「もう上層部に提出済みらしく、俺も朝辞令で知ったんだよ。全く、俺に一言もなくだよ。」

「何か事情があったのかもしれないですね。」

私がそう言うと、有馬さんは思い出したかのように目を見開いた。

「そういや、提出したときに"どうにもならなくなった。止めなければならない人物がいる。"と言っていたそうだ。」

"止めなければならない人物。"

ドクンと胸が嫌な音をたてる

その言葉に鴻巣さんに言われたことを思い出す。

『どうして姫野は狙われたと思う?』

もしかして…姫野と澤田に関係がある人物?

まさか。
まさかね…。

私の考えはどんどん嫌な方へと向かう。

「これだから若い者は…。」

有馬さんの声が届かないくらい、私は胸の嫌な音が耳を支配していく。

「それと、何やらこれを姫野莉依さんにと渡してきたそうだ。」

そう言って、有馬さんは私に封筒を渡す。

封筒の封を開け、中を見て驚愕する。

「…っ!?」

そこには9列の文が記されていた。

桜が散る頃に、真実が明かされる。
綿雲は浮くも、黒く染まり、
大丈夫と言いたいが、闇は深すぎて。
逃げるのもひとつの手。
留意するも、魔の手はすぐ来る。
埋まったら最後。
意図を探るも、闇の中。
世界が驚愕するほどの事が起こるだろう。
余波は静まらず。

「何やこのデタラメな文は。気色悪いのう。」

「何故鴻巣はこれを姫に…。」

「どういった内容なのか調べますか…。」

「有馬さん、鴻巣は他に何か言ってましたか?」

翔ちゃんたちは考え込む。

だけれども、その"答え"は何か出てこない。

でも、私はその文の謎を知っている。

私は、父に幼い頃叩き込まれて"この文"を知っている。

それは…。

澤田のやり口である、"縦読み暗号"だからだ。