フードの男が現れてからすぐ、有馬さんがわざわざ清宮まで顔をだしに来た。

鴻巣さんがいないことに少し安心する自分がいる。
そんなことを表情に出さないように気を付けながら、事件について話をしていく。

「清宮が闇討ちをくらったと、親父さんから聞いてな。被害のほどは?」

「組幹部の神永さんです。医者へ診せたら骨か折れてたそうで、手術もいれて全治1ヶ月。」

鴻巣さんは、神妙な顔つきだ。
有馬さんは、何かと何かを照らし合わせるかのように話を進めていく…。

「実はな…。俺がまだひよっこの刑事の時だ。澤田から同じ手口での攻撃が当時の姫野にあったんだ。」

え…。
学生時代、父は澤田との小競り合いが頻繁にあったと聞いていたけど、そんなことがあったなんて…。

「その時は、俺はあんまり関われなかったんだが…。」

「…その時の、父たちの…被害は?」

やっと言葉が出たが、内心震えて涙が出そうになっている。


でも…、娘である私ですら当時の父たちのことは何も知らない。

謎だらけの姫野組。

それは意図したことなのか、はたまた偶然なのか…。

「心配することはないさ。当時の姫野には物凄い強さを持っていたメンバーがいたからな。被害は打撲程度だよ。」

表情が暗くなった私に、安心させるかのように有馬さんが話す。

打撲程度で済んだってのは、凄いわ。
当時の父たちは物凄い力を持っていたのね。

安心したのも束の間。
照らされぬ闇が向かってくるように、すぐ不安は押し寄せる。

「只な…、その事件の後だ。」

有馬さんの言葉に、身体中緊張が走る。

「姫野組襲撃死亡事件。」

その言葉に、私の胸が嫌な音をたてた。

姫野組襲撃死亡事件は、私の両親が亡くなった事件。

待って…。
この流れって…澤田は突発的にではなく、計画的に動いていた?

一体何のために…。

「澤田組がこうして神永に手を出したのも、近々大きな抗争をするという意味かもしれん。」

「有馬さん、その話の確証は?」

翔ちゃんが、静かに有馬さんに返す。
その表情は、険しく苛立ちも感じられる。

「確証はないが…。長年この仕事をしてるとな、勘だけは鋭くなるんだよ。」

翔ちゃんの険しい顔に怯むことなく淡々と話す有馬さん。

肝がすわってる。

「取りあえず、身辺に気を付けてくれ。 俺もこの件に関しては、慎重に進めていく。」