翔樹side
先ほど物凄く取り乱していた莉依は、俺のベッドで規則正しい寝息をたてていた。
顔に付いた髪の毛をはらいながら、愛おしい顔を撫でる。
俺は小さい頃から、莉依の事が好きだ。
初めは、家族としての"好き"だった。
だが、段々と可愛さから綺麗さに変わっていく莉依を見て、自分の想いは女性としての"好き"に変わっていった。
他の男が寄ってこないように傍にいて、牽制していたのは自覚済み。
「お前は…そんなに大事ならとっとと自分のものにしろよ。」
学生の頃晶に言われたが、そこまで踏み入れる勇気がなかった。
莉依はまだ親のことで気持ちが不安定だ。
1人になるのを極力嫌がっていたから、"極道"に身を置く俺は、想いを伝えることをためらっていた。
何故なら…。
"いつ誰に殺されても分からない世界だから"。
俺が想いを伝えれば…。
莉依は他の奴らの餌食となる。
何故ならば、俺の弱みとして奴らの手に握られてしまう。
また、殺されてしまえば莉依をまた1人にしてしまう。
そんなことから、俺は全くと言って良いほどに前に進めていない。
関係が壊れるくらいなら、このままの方が…。
そう思ってしまう。
だがそれとは裏腹に、自分のものにして誰にも見られないように閉じ込めてしまいたい。
「つくづくヘタレだな…俺は。」
莉依が大切だからこそ、この関係のままでいたい。
莉依が大切だからこそ、この関係よりも前に進みたい。
反発する想いが俺の中で占めていく。
「ん…翔ちゃ…。」
寝言を言いながら、俺の名を呼ぶ莉依に胸が高鳴る。
さっきは、死んでしまうのではないかと思うほどの有り様だったが、こうして安心して眠ってくれている姿を見ると愛おしく感じる。
俺は、姫野功希さんの娘だから守ってるんじゃない。
1人の女性として。
"姫野莉依"だから守るんだ。
「絶対に、澤田の思い通りになんかさせねぇ。」
何かを企んでいるのは明白。
だが、証拠がまだ上がらない。
澤田はこれから何を起こそうとしているのかー…。

