「翔ちゃんお待た…せ…。」
私の声も届かないくらい集中してる翔ちゃん。
その美しい横顔に、息をのんでしまうのと同時に、私の胸は大きく音をたてる。
でもその胸の音は、すぐに先程の言葉で傷つけられた。
"何で清宮は、姫野の娘を今も預かってるんだ?もう戻ってもいいだろな。"
"若の仕事を邪魔してるくせにな。"
さっきの言葉が、頭の中で呪文のように繰り返される。
笑いたいのに笑えない。
涙が出そう。
頑張って顔に笑顔を張り付ける。
翔ちゃんにはバレないように。
「翔ちゃんお疲れ様。忙しいのにごめんなさい。」
私の言葉に、ふわりと笑みを向けてくれた。
「俺が好きでやってるんだ。気にするな。」
翔ちゃんの大きな手が、私の頭に乗っかった。
期待しちゃうよ…そんなこと言うと。
「翔ちゃんは…、優しすぎるよ。」
小さく言葉がもれる。。
でも、その声は翔ちゃんには届かない。
目の前で集中している翔ちゃんの邪魔をしてはいけない。
組の仕事で忙しい翔ちゃんだけれども、それでも私を優先してくれていると思うと、嬉しさが強く出てしまう。
でもそれは、私の勝手な勘違いであって、翔ちゃんは仕方なく私の側にいてくれている。
私は姫野功希の娘だから…。
翔ちゃんのお父さんである、樹さんの友人の娘だから、こうして近くにいてくれるのだ。
心臓の音がうるさいのと同時に、心の痛みが私を襲う。

