「茶番はそこまでだ。そろそろ我慢の限界でねぇ。」

澤田が手を上げると、澤田の後ろにいた組員が銃を構える。

「今度は外さない。お前の大切な奴らを殺していく。」

気持ち悪い声で高らかにまた笑う。

取り乱していたのが嘘のように落ち着いていく。

「…本当に、言うことを聞けば皆には手を出さないのね?」

私は、澤田にすりよって声を発する。
すると、鼻の下を伸ばしてニヤリと笑う。

「そうだ。そっちが選んでくれさえすれば、約束は守るさ。」

「っ…莉依!?やめろ!!」

翔ちゃんが叫ぶも、私は目の前の澤田をしっかりと見る。

私は、誰も死なせたくない…。

「私があんたのものになれば、いいのね?」

「莉依!姫野の長が、簡単に飲み込まれてどうする!」

大和が私に向けて叫ぶも、澤田は気分が高揚して高笑いする。

「やっと決断したかの。ふはははは!やっと!やっと手にするぞ!」

澤田の気持ち悪い手が私の頭に触れる。

我慢…。
我慢すれば…。

「これからワシが、たっぷり可愛がって…。」

澤田の声が急に止まる。

何故ならば、鴻巣が澤田を後ろから羽交い締めにしていたのだ。

「鴻巣さん!?」

「莉依さんっ…あなたが我慢すれば良いなんて…間違ってます!」

「鴻巣っ!裏切りやがったな!?」

一瞬の出来事だった。

澤田の後ろにいた組員たちは静かに倒れていった。
私たちも澤田も気づくことが出来なかったほどだ。

澤田はまさかの裏切り者に動揺し暴れだす。
だけど、鴻巣さんも負けじと押さえつける。

「私は…どんな思いで澤田に使えていたと思う!!お前を恨み、何時なんどきでも殺したい気持ちは消えずにいるんだ!!」

鴻巣さんは、苦しそうに顔を歪めながら叫ぶ。
主を亡くし、行き場の無かった10年分の感情をぶつけているようだ。

「どいつもこいつも邪魔しおって!!何故ワシの思い通りに動かない!!」

吠える澤田はもう、正気を失ってる。
正常な判断が出来ていない状態だ。

「凌佳を手に入れられなかったんだ!娘をワシのモノにしてもよかろう!?」

鴻巣を振り切り、澤田は自身の懐から黒い物体を取り出す。

!?

その黒い物体は、拳銃。

背中に嫌な汗が流れる。

「裏切り者には制裁を加えなくてはのう?」

大きな音と共に鴻巣は地面に膝をつく。
左太腿を撃たれ、上手く立ち上がれないでいる。

「ぐっ…。」

「澤田!!やめなさい!」

「なら!ワシのモノになれ!!」

…ダメだ。
メチャクチャだわ。

こんなの、子どものほうが聞き分けが良いわ。

「…で?私を手にして何をしたいのかしら?」

「そりゃ、ワシのモノになったら凌佳に出来なかったことをだな…。」

澤田が少し目線を落とした隙に詰め寄り、回し蹴りをお見舞いする。

「誰がキモくそジジィなんかのものになるか!脂汗で気持ち悪い!!」

そう言って、伸びてしまっている澤田の腹に一発拳をいれる。

私のまさかの暴言に、周りにいたみんなは引いていた。

彼女を敵に回すと厄介だと誰しもが思ったことを莉依は知らない。