…川上組の意図が見えない。
何のために優杏さんを…。
「川上のことはいいだろう。そうじゃ、昔話をしようかのぅ。あれはまだ、ワシが若頭のときじゃよ。とその前に…、姫野の騎士がやっと来たようだな。」
後ろを振り向くと、大和達がボロボロになりながら中庭の入り口に立っていた。
「大和っ!」
「澤田!てめぇ!」
大和は真っ先に澤田に向かって動き出すも、すぐさま澤田の組員に囲まれてしまい、身動きがとれなくなる。
新も、芳樹も陽介も同じ状態になっている。
「おやおや、中里の娘も来ているとは。まさに飛んで火に入る夏の虫じゃの。」
澤田は指を鳴らした。
それと同時に、大和達の後ろにいた優杏さんが、澤田の組員に捕らえられてしまった。
「っ!?優杏!!」
「大和っ!」
「くくくっ。つめが甘いのう。これで残るは莉依、お前だけじゃ。」
澤田の組員は大和達に攻撃を仕掛けていく。
「…っ!莉依、気を付けろ!そいつは…。」
澤田の組員に拳を入れられ、言葉を遮られた。
澤田は、大和に冷たい目を向ける。
それは、身震いさせるほどの冷酷な目。
「いいところを邪魔するでない。これから盛り上がると言うのに、邪魔されては困るのう。」
澤田は1歩ずつ私に近づく。
私の足は、糸で縫い付けられたかの様に動かない。
「18年前、当時の白羅(はくら)学園に、絶世の美女と言われた女が居ると聞いた。それがお前の母、凌佳じゃ。」
澤田は上を向くも、すぐ私に視線を戻しニヤニヤしながら話を続ける。
「一目惚れじゃったよ。今まで女は欲を吐き出す道具としてしか見ていなかった。そんなワシが、初めて女を心から欲しいと感じた。何としてでも、手に入れようと思ったさ。じゃが、幾度となく姫野功希が邪魔してきよった。しかも付き合いだして、白龍まで作り上げてしまった。そして、お前を身ごもった。」
澤田は近くにいた自分の組員を蹴飛ばす。
狂ってる…。
自分の組員を…。
「狂いそうなくらい暴れたさ。諦めきれなかったワシは、姫野功希とその娘であるお前を殺し、凌佳をワシのモノにするという計画を立てたのだ。」
「私を…。」
やっぱり、私を殺そうと…。
私の表情を見て、澤田は続ける。
「だが、直前で凌佳はそれに気付き、弾の餌食となってこの世を去った。」
澤田は私の前に立つと、気持ち悪い笑みを更に漏らす。
「そりゃ、取り乱したさ。毎日酒を浴びるように呑み、会う奴全て叩きのめしてきた。そして殺してきた。…、お前が死ねばどれ程よかったか。そう思っていたよ。」
狂っている…。
母を自分のモノに出来なかった腹いせに、色んな人に手を出していたということ…?
関係のない人達を巻き込んでは殺したの…?
「お前のせいで私の両親と優杏さんの両親を…!」
「ワシは悪くはないぞ?全ては、ワシを受け入れなかった凌佳と、凌佳を奪った姫野功希のせいじゃよ。」
っ!!
「父と母は何も悪くない!思いどおりにいかなくて殺すなんて、子ども以下!いえ、ゴミ以下よ!!」
「莉依ちゃん、落ち着いて!」
後ろから、優杏さんの声が聞こえる。
それでも、私は怒りと恐怖で体の震えが抑えられなかった。
「あぁ。先に撃たれた2人のことだな。アイツらは厄介でな。うちの情報を嗅ぎ回った上に、情報を盗みやがった。盗人には制裁をくださないとなぁ。そうだろ?」
うるさい…。
お前が殺したんでしょ…。
私が目線を落としたとき、ガチャリと重たい音が聞こえた。
振り向くと、澤田の組員が優杏さんと大和達に向けていた。
「!?何をするの!」
「見ての通りさ。銃口を向けておる。」
「今すぐ下げさせなさい!」

