翔樹side
烏丸を俺の車に乗せ走り出したとき、スマホが震えていることに気がつく。
発信者は姫野の組員である陽介から。
「何だ?」
『悪いな。大和にかわるから、そのまま待て。』
は…?
電話に出るなり、待て?
「若、どうしました?」
「陽介から掛かってきたかと思いきや、大和にかわるから、そのまま待てだと。」
「何か緊急の用で掛けてきたのか?」
「何やろな。大和から電話なんてめっずらしいやないか?」
ハテナが飛び交うなか、電話越しに大和の声が聞こえてきた。
『わりぃな。』
「何だ。陽介から掛かってきたかと思いきや、大和にかわるから、そのまま待てと言われたぞ。何なんだよ。」
『緊急事態だ。』
声が落ち着いていない。
ただ事じゃないことが起きたな。
「何があった。」
『莉依が、1人で澤田の本拠地へ向かった。親父さんの部屋に行ってくると言って…時間が掛かってるから見に行ったら、莉依の姿はなかった。東の繁華街の防犯カメラに向かう莉依の姿が映ってた。もう、すぐに澤田のところに着いてしまう頃だ。。』
…これは厄介だな。
莉依はもう行動に移したのか。
仕方がねぇな、嘆いてても何も始まらねぇ
『翔樹!こっちもこれから急いで向かう!そっちも取り急ぎ澤田の本拠地へ向かってくれ!莉依が危ねぇかもしれねぇ!』
「大和。」
俺の低い声が、大和に届く。
「組長補佐なんだろ?そのお前が動揺してどうする。」
俺の言葉に息をのむのが伝わってくる。
どうやら俺は、図星をついたようだ。
「本当ならば、ぶん殴ってやりたいところだが、今は嘆いている場合じゃねぇだろ?今、莉依の居ない姫野を纏めるのは、補佐であるてめぇの仕事だ。」
周りが見えなくなってどうする。
俺は強く言葉を放つ。
すると、ハッとしたのか、電話越しの動揺が嘘のように消えていた。
しばらく無言が続いたが、深呼吸をしたのか次の言葉には焦りは感じられなかった。
『悪りぃな、失態を聞かせた。10分後、東の繁華街で落ち合おう。』
流石、姫野。
切り替えが早ぇ。
「フッ。負けるなよ。」
俺の言葉は、自分に対してか?
それとも澤田に対してか?
どっちもだろうな…。

