鴻巣はわずかに表情を歪めた。
何を知っているんだ?

「澤田がおかしくなったのは、10年前の襲撃事件からなのです。」

「10年前…?」

「10年前澤田は、功希様と莉依様を殺すつもりでいました。」

「は!?」

莉依を殺そうとしてただと!?

「凌佳様の愛する2人を殺し、心を壊して自分のものにしようという残酷な計画だったんです。ですが、凌佳様が莉依様を庇って撃たれて亡くなられた。澤田の計画は大きくズレてしまった。そこからです、澤田が狂い始めたのは。」

鴻巣は、顔を歪めて苦しそうにしている。
一番辛いのは、鴻巣なのかもしれない。

自分の慕う組の長を目の前で殺され、自分は敵陣にいるから、泣くことも悲しむことも出来ず…ひたすら感情を抑えて今に至るんだ。

「刑務所に入り暫くして、刑務官に扮装した澤田の組員に脱獄を手助けしてもらい、この地に戻ってきた。そして言ったのです。」

ー凌佳は手に入らなかったが、娘の莉依がいるな。今度こそワシだけのものにする。ー

と。

「出きる範囲では、私の指示で私や他の組員が莉依様のところに向かって、澤田が直接会わないように仕向けてましたが、澤田自ら動き出してしまい…、私一人ではもう手が負えないほどにまでおかしくなっていた。」

「まさか、澤田は…いや、憶測でしかありません。」

晶が何か気付いたように言うが、言葉を濁す。

「…俺も思っとったが、姫ちゃんのトラウマを引き出そうとしてるんとちゃうか?」

「あり得るな…。あの澤田のことだ、やりかねない。」

礼と慶一郎も、何とか声を振り絞って思いを言葉にする。

「トラウマを使って、洗脳しようってやつか…。とんでもねぇ野郎だな。」

静かに聞いていた龍也も、表情を歪ませていた。