何とか気持ちを抑えながらホールを出ると、後ろから大きな声を出して私たちの足を止める人がいた。
「莉依!」
翔ちゃんが私の名を呼ぶも、奏希叔父様と大和達が間に入る。
一触即発な状況。
「大和…、てめぇ騙してたのか?」
ものすごい殺気を出すも、大和達は怯まない。
「お前ら、姫野の組長の前で何て面してやがる。馴れ馴れしく話しかけるとはな。」
「そこをどけ。莉依と話をさせろ。」
「話すことなど何もない。澤田との事がある中、時間を割くことなど出来るか。」
鬼の形相で翔ちゃんが言うも、大和は全く応じない。
流石、奏希叔父様に仕込まれただけある。
でも、一向に下がる気配はない。
また強く言わなければならないわね。
「大和、少し下がりなさい。」
私の一声に、大和は静かに後ろに下がる。
もう、翔ちゃんとは呼べない。
呼んではいけない。
「清宮の若、戻って自身の組を守ることに専念してください。」
私の言葉に、翔ちゃんは表情を歪める。
「どうして…、知らせなかった…?皆心配してたんだぞ!」
皆…。
確かに消息を絶ち、居ないものとしてきたから、清宮の人たちは物凄く私の事を探したはず。
でも、そうしなければ、澤田の魔の手が…。
翔ちゃんが私の手を取ろうとしたとき、乾いた音が響く。
「うちの組長に私的で関わるのはやめていただきたい。」
大和はすかさず間に入り、翔ちゃんの手を払ったのだ。
「彼女はもう、姫野の長だ。馴れ馴れしくする者は、誰であろうと許さねぇ。」
「てめぇは下がってろ!」
翔ちゃんが拳を振り上げた時、野太く、でも焦りを含んだ声が響く。
「やめろ翔樹!」
そこには、樹さん、川城のおじ様、川城の若頭が居た。
「姫ちゃん…。」
龍也さんが力無く、私の名を呼ぶ。
決心した心が揺らぎそうになる。
皆心配していてくれていた…。
でも、ここで揺らいでしまうと、更に闇に引きずり込んでしまうことになる。
突き放さなければ…。

