そこで私は「トイレに行ってくる」と言い、一旦席を外すのだけれど。
苺といえば……。
昔のあることを思い出して、少し胸が苦しくなる。まだ忘れてはいない、忘れられない出来事。
二人には言えないけど、私は昔、すごく貧乏だった。それはもう毎日食べるものにも困るほどで。家はよくあるボロボロのアパートの一室。それも家賃の安い一階。
二階のベランダの手すりは遠目で見ても明らかなほど赤茶色に錆びていた。
建物の側面には、建物を緩やかに呑み込むようにつるが巻き付いている。
もやしばかり食べていた記憶がある。スーパーの閉店ぎりぎりに駆けこんで安売りを狙うことも多かった。



