藍子に、真広の家のある場所を伝えた。この辺りでは有名な山の名前。
私の町と真広の住む隣町をまたいでいる。その山の途中に真広の家がある。山の入り口は確か一つだから分かりやすい。そもそも観光目的で人が来るくらいだ。話せば、藍子もその山のことは知っているようだった。
「また後でね」
〈......うん。あ、怜美〉
「なに?」
藍子は、急いで電話を切ろうとした私を呼び止めて、
〈場所、教えてくれて、ありがとう〉
と、一言。
「どういたしまして」と言って私は電話を切ると、レジ袋をその場に置いて鞄だけ持って走り出した。また泣きそうになって、走りながら空を見上げる。
近くに駅がある。山の近くまで電車で行って、そこからタクシーに乗ろう。お金はぎりぎりかもしれないけど、なければ走ればいい。



