なにかおかしいと思ってたんだ。 思ってたけど聞けなかった。 触れるのも怖かった。 春が来た。 気づいたら俺は祖父母の家の床の上で苦悶していた。 胸に手を押し当てて、背中を丸めて頭と膝を床につく。 台から落ちた受話器の紐が伸びている。戻そうとして手が滑った。足が上手く動かせなかった。視界がぐらぐらと揺れている。 内側から肺を破り、あばら骨を叩くような大きな心音が、体の中に響いている。今この瞬間心臓を抉り取れたらいいのに。周りの音が何も聞こえない。うるさい。うるさいうるさいうるさい!