どくん、とした。
感情を押し殺すことは、私の中では簡単なことだった。先生に雑用を頼まれたときも、友達に嫌味を言われたときも、親から過度な期待をされたときだって。いつだって笑顔を見せてその場をやり過ごしてきた。そうやって、感情に蓋して表情だって上手く作れていると思っていたから。
初めて見透かされたことに、ましてやそれが、ただのクラスメイトである佐川に驚きを隠せなかった。
「これから時間ある?」
静寂を破ったのは先程とは打って変わった明るい声の佐川で。
「ある、けど……なに?」
なにかを企んだような顔。
怪訝な視線を向けるも、彼はそんなことなどお構い無しに立ち上がって。
「行くよ」
私の目の前に手を差し伸べてくる。
「どこに、」
「いいから着いてきて」
なかなか手をとらない私を半ば強引に引き寄せて、その勢いのまま立ち上がる。
「どーせ行く当てなかったでしょ」
不敵な笑みを見せたと同時、左耳のピアスがきらりと日光に反射して煌めいた。



