さよならセーラー服



「あれ、佐川だったんだ」

学外のコンテストで銀賞に選ばれた絵。

惜しくも金賞には届かなかったけど、あの絵は今まで書いた絵の中で一番思い入れがあってお気に入りだ。



「テーマは、」

「わたしのお気に入りの場所」

佐川に続いて、声を乗せた。


覚えてる。
唯一好きな美術の時間。


「あのときの広瀬、目輝かせて言ってたから」


──わたし、絵描くの好きなんだ



今の佐川が、昔のわたしの姿と重なってみえる。

そのあまりにも真っ直ぐな瞳に、負けそうになる。



「海のどこが好きなの」

コト、と空になった瓶を置きながら、呟きのように訊ねられる。


そういえばそんなこと考えたことなかったなあ、と思考を巡らせて。



「自由、なところかな」

「自由?」と小首を傾げる佐川から視線を逸らして、目の前に広がる青を視界いっぱいに映す。


「そう、なんて言うんだろ。どこまでも広くて、流れるがまま、っていう感じ。きっと、羨ましかったんだと思う。今のわたしは、四方八方が壁で、時にはぶつかって、行き止まりになって、迷ったりして。まあそれが受験生の宿命なんだろうけど」


毎日学校に行って放課後は塾に行って、土曜日は補習を受けるためにまた学校に行く。長期休暇には強制参加の学習会。



「だからこそ、逃げ出したかった」