「ん、」
落ち着いたその声に、現実世界に引き戻されて。
左側、座った佐川の手が私へ伸びる。
「飲むでしょ」
道中、通りかかった駄菓子屋に寄って買った二本のサイダー。
そのうちの一本を持った佐川の横に座り、「うん」と頷いて受け取る。
「やっぱ夏といえ──」
不自然に言葉が途切れる。
瞬間、プシュッと爽快な音を立てて開いたサイダーから、シュワシュワと泡が溢れ出す。視界に移る彼。
「……あははっ、佐川びっしょびしょ!」
……ダメだ。なんとか笑いを堪えようと思ったのにそう思えば思うほど可笑しくて。
「笑ってないで助けろよ。てか広瀬も早く開けて」
「えーわたしはいいよ。手汚れたくない」
自転車の前カゴに入れて運ばれたふたつのサイダー。ガタゴト揺られてたんだ。炭酸溢れるに決まってる。
「ちょっと貸せ」
私の手から奪われたサイダー。
なにするの、と言う前に、シュポンッと軽い爽快音。
あ、と思った時にはもう遅く。
その瓶をわたしに向けて、結局は数秒前に起こったことと同じ。
せっかく駄菓子屋のおばあちゃんが気をつけるんだよお、って言ってくれたのに、と思いながらベトベトになった私たちは目を合わせて笑い合う。
カンパーイ、とゆるい音頭をとった彼と瓶をカコン、と鳴らしたあと、透明な青を喉に流し込む。残りは半分ほどになってしまったけど、それでも味には変わりなく。炭酸の痛さが喉を刺激して、ぷはっ、と息を吐いた。



