さよならセーラー服



「────ここ?」


ふいにブレーキをかけた佐川に後ろから訊ねると「そうそう」と軽い答えが返ってくる。



あの後、近くだという佐川の家に寄り自転車を持ってきたかと思えば、後ろに乗るように促され。

自転車の後ろに私を乗せ満足気な笑みを向けた佐川は、勢いよくペダルを踏んだのだった。



白線の内側に自転車を止める佐川の横で、辺りを見渡す。

道路の向かい側にはポツポツと家があって、もう少し奥には木が生い茂った森みたいな場所もある。


ぐるりとその場を一周したところでいつの間にか防波堤に腰掛けていた佐川と目が合う。


「なに、珍しい?」

「いや、17年もここで育ってきたのにこんなところあるなんて知らなかったなあって」


時間にしたらたぶん三十分くらい。
自転車でその距離なのに、いつも住んでいるところとはまた違った雰囲気を感じる。



「登れる?」

小馬鹿にしたような声色に、「登れるって」と目線の高さくらいまであるコンクリートに手を置いて勢いよくジャンプする。

ふう、とひと息ついて体勢を整えようとして。



「わ、」

思わず零れた感嘆の声。

目の前に広がったのは、白い砂浜とそれから。



「海……」


その光景に目を奪われ、はっと息を呑んだ。


「きれいでしょ」なんて声が打ち寄せる波の音に重なる。


行き先を聞いても「いいからいいから」とはぐらかされるばかりで頑なに教えようとしなかった佐川。