青い夏の、わすれもの。

わたしは最後列のど真ん中の位置に腰かけた。

音が出やすいように背もたれに背をつけないこと。

入部して最初に習ったのがそれだった。

背筋をピンと伸ばし、先生が中央まで歩いてくるのを見守る。

先生の靴の音さえも、この張りつめた空気の中では騒音に聞こえる。

騒音から最高の演奏に変える役割をわたしたちは今から全うするのだ。

3年間の集大成のステージ、

わたしは必ず成功させる。

出来る、わたしなら。

今ここで息をしてるわたしなら、

出来るよ、絶対。


先生の足音が止み、アナウンスが流れる。


「エントリーナンバー10番。熱海中央高校」


先生が深々とお辞儀をしてから体を反転させ、タクトを構える。

これを振り下ろしたら、スタートだ。

さっきまで口から心臓が飛び出そうになっていたのに、今は面白いくらい落ち着いている。

なんだ、わたし...。

やれそうじゃん。

うん、出来る。

出来る、絶対。


先生と眼が合った。

わたしは、はぁっと一瞬でその場の空気を吸い込んだ。


――ボーンボボボーン。ボッボッボボーン...。


ファンファーレは見事成功し、曲が波に乗った。