青い夏の、わすれもの。

「頑張らなくていい」


さつまくんの口からその一言が力強く放たれた。

矢のごとくわたしの胸に深く突き刺さる。


「頑張らなくてももう十分山本は頑張ってる。自分を信じろ」


さつまくんの言葉のすべてがわたしの胸に張り付いた分厚い氷を徐々に溶かしていく。

緊張でガチガチだった身体に熱が戻り、頬の筋肉が弛緩する。

そして、伝える準備が出来た。

わたしは心の底から舞い上がる言の葉を紡いだ。


「ありがと...」


わたしが笑みをこぼすと、さつまくんは前に向き直った。

会場から拍手の音が聞こえてくる。

コツコツコツコツ...とローファーの音が向こう側に吸い込まれていく。

いよいよ、わたしたちの出番だ。


「ちゃんとついて来い」

「おっけ」


わたしは右手の人差し指でさつまくんの背中をちょんと突いた。

さつまくんはそれを合図に歩き出した。

わたしはその背中を追う。

今何よりも信じられるのは...目の前の彼だ。

さつまくん...

一緒に行こう。

金の向こうのステージに。