青い夏の、わすれもの。

風くんが来てる...。

深月さんもいる...。

ど、どうしよう...。


1度は凪いだ水面が、本当に本当の本番直前の舞台裏に待機している段階でまだ波打っていた。

このまま本番を迎えたら最初のファンファーレで吐いてしまいそうな気がして、恐ろしくなり、脈拍は急上昇した。

バクバクバクバク...。

目の前が真っ暗になっていく。

わたしこのまま天に召されるのでは...。


「山本、しっかりしろ」

「ふわっ!」


前に並んでいたさつまくんが振り返り、わたしを睨み付けてきた。

な、何その目...

怖いんだけど...。

なんだか、血の気が引いていく。

本番前に縁起が悪そうな顔しないでよ。

わたしがそう心の中で嘆いていると、さつまくんはぼそりと呟いた。


「オレの努力を無駄にする気か?」

「えっ?」

「そんな怖い表情で演奏始めたら、頭から100パーミスる。そしたら、オレが毎朝指導した意味が無くなる」

「そ、それは確かにそう、だね。ミスんないように頑張る。さつまくんの足引っ張らないように頑張る」


わたしがそう誓いを口にすると、さつまくんは「...違う」と答えた。


「違うって何が?」


わたしの言葉とほぼ同時に前の学校が最後の盛り上がりの部分を演奏し始めた。

まるで、雨の日の川の濁流のように激しく飲み込むような迫力のある演奏が耳に届き、胸に迫ってくる。

こんなのに敵うわけない。

わたし、やっぱり...頑張れな...。