青い夏の、わすれもの。

最後の合奏が終わり、楽器が冷めないようにクロスで磨いたり、息を吹き掛けてメンテナンスを施しているところでノックの音が聞こえた。

こんな直前に誰だろう?

もしかして、どっかの学校が出場辞退して
繰り上げて本番が早まったとか?

まさかね...。

いや、でもそのまさかなんじゃ...

などと1人またぐるぐる思考を繰り広げていると、声が聞こえた。


「澪っ!」


その声に聞き覚えがありまくりだった。


「爽!どうしてここにいるの?」

「はっはっは!それはもちろん澪の応援のためだよ」


異様にテンションが高い爽が視線の先にいた。

こんな直前に勝手にやって来るなんて信じられない。

せめて連絡くらいしてくれないと...。

心臓に悪いよ...。

わたしが小心者だって1番良く知ってるのは爽のはずなのに...。


と、爽の方ばかり見つめていたから、その奥の美白の美少女に気付くのが遅れてしまった。


「深月さん、こんにちは」


わたしが精一杯の笑顔で平然を装って挨拶すると、深月さんは花束を気にしながらぺこりとお辞儀をした。

深月さんの花束は実にセンスがあって向日葵をセンターに、オレンジや黄緑、白など見る人を元気付けるような鮮やかで眩しい色で彩られていた。

わたしの心にもぽぅっと仄かに火が灯った。


「その花束素敵ですね。誰に渡すんですか?」

「えっと、それは...」


わたしが聞くと、深月さんは視線を泳がせた。

なかなか見つけられないみたいで、代わりに爽が口を開いた。


「トランペットの子じゃないの?あれ?澪、この前なんて言ったっけ?」


そうだ。

そういえば、この前爽と深月さんの話になって彼のことを聞かれたんだった。


「あ~、そっか。さつまくんだね」

「えっ?さつま?」

「正式名称は大楽律くん」

「そうそう。大楽律。で、その彼はどこ?」

「さつまくんなら、今ここにはいない。楽器冷えると嫌だからってわざわざ暑い廊下にいる」


爽がニヤッと小悪魔の笑みを浮かべ、深月さんに視線を流す。


「だってさ」


深月さんはその後すぐに練習室を後にし、さつまくんの元へと駆けていった。