青い夏の、わすれもの。

わたしは頬を最大限に膨らませてさつまくんを睨み付けてから楽器をケースに戻した。

人使いが荒い、か...。

昔はその逆だったのになぁ。

きっと原因は...この人だ。

わたしに利用してもいいって思わせるさつまくんが悪いんだ。

全くもぉ、自分のことは棚に上げて...。

ちょっとむかつく。


「山本、早くしないと鍵閉めるぞ」

「えっ?ちょ、ちょっと止めて!閉じ込めないで!わたし、閉所恐怖症なの!」


わたしは全力ダッシュをして準備室から出た。

はぁはぁはぁと息が上がる。

ほんと、意地悪。

でも、たまに優しい。

この人もこの人で罪な男だ。


「何?」

「あ、いや。何でもない」


わたしがじっと顔を見つめていると彼はふっと笑った。


「ま、いいや。じゃあ、オレ鍵返してくるから先教室戻って」

「うん。ありがと」


さつまくんはまたふっと笑い、わたしに背を向けるとさっと視界からいなくなった。

雲のように掴みどころがない人だけど、これだけは確かに言える。

さつまくんは良い人だ。

今までも今もこれからも

きっとわたしを見捨てたりしない。

だから、わたしもさつまくんに何があっても見捨てないよ。

今までの分、ちゃんと恩返しする。

何があってもわたしだけは絶対にさつまくんの味方だから。

わたしはそう心の中で誓った。

そして、その誓いが果たされることになる日はすぐ目の前に迫ってきていた。