あたしは涙の代わりに笑顔を振り撒いた。


「何いってんですか~。まだ引退試合ありますから!勝手に終わらせないで下さい!」

「そうだったな。ごめんごめん。それにしても永瀬は元気だなぁ。元気印の永瀬がいなくなったら、うち、枯れちまうなぁ」

「なんですか、その言い方?湿っぽくて監督らしくないです」

「そういうからっとした返しが無くなるのは、ほんと残念だ」

「名残惜しいんですね」

「それなりにな」


ここであたしは気づいた。

監督は意外にもあたしのことを気に入っていたのだ、と。

別に好かれても嫌われてもいなくて、ほんと普通の生徒と顧問の先生みたいな距離感かと思っていたら違ってたんだな。

それなりに信頼されて、

それなりに必要とされてた。

そっか...

あたし、頑張ったんだな。

居なくなるのが惜しいと思われるほど、おっきな存在になれたんだな。


なら、さ...

もしかしたら、さ...。


あたしはぼろぼろのバッグに手をかけた。

そして、走り出す。


何でもいい。

理由なんてなくていい。

ただ、そこへ行きたい。

あいつの隣に行きたいんだ。


額には汗、

首筋に流れてシャツに染み込む。

汗臭いのはいつものことだから気になんてしない。

それよりも早く...

早く行かなきゃ。

あたしが、慰めてやらなきゃ。