その日の帰り道のこと。

始業式とHRだけだから、午前中で終わったというのに、わたしと律は図書室で真面目に勉強し、気がつけば部活の終了時刻と同じになっていた。

だからバス停までの景色は全く同じ。

ただ、わたしたちの関係性は変わった。

友達というよりは師弟って感じの2人が今では恋人に...。

自分のことのようには思えない。

未だに実感が湧いていない。


「なんか...オレどうかしてるな」

「えっ?」


わたしのリュックを前に、自分のリュックを後ろに背負って重たそうな律。

ふーっと吐いたため息は夜空に溶けていく。


「どうかしてるって何が?」

「こうやってカノジョになった澪と並んで歩いてるとか、2人で同じ大学行こうとか言っちゃってさ。ほんと、どうかしてる。自分が自分じゃないようだ」

「うん...でもほんとそうだよ。恋ってそういうものなんだよ。わたしもそうだもん」

「いや、澪の場合は元からふわふわしてるとこがあるから、それが酷くなっただけだ」

「なにそれ。ひど。今度言ったら別れる」

「とか言って別れを切り出せないでグダグダする」

「もぉ...!何でも見抜かないで!恥ずかしい」


わたしが笑えば律も笑う。

律が笑えばわたしも笑う。

こんな尊く青々とした関係が築けるとは思ってもいなかった。


失恋からの大逆転...

わたしに奇跡が起こったんだ。

真夏に雪が降るような、

当たり前を根底から覆す奇跡が起こったんだ。

わたしはその奇跡から生まれた愛や友情を心に抱いてこれからも歩いていく。

青い未来で律と笑っていたい。

そのためにここからまたスタートを切ろう。


「律、バス来ちゃう。行こう!」


わたしは青い風を切って走った。

加速し、辿り着いた先に見える世界が

青々としていて美しいことを願って。