「そんなこと、言うなよ」


魁は砂で汚れたユニフォームの袖で頬を激しく伝う涙を拭った。

そして、あたしの頭にポンっと手を乗せる。

あたしの胸はキュンっと狭くなり、

呼吸が苦しくなった。

あぁ、この距離がもどかしい。

この見えない壁を越えて今すぐ向こう側へ飛び込んでいきたい。

近づきたい、もっと。

けど、今はまだ出来ないから、

この距離で、

あたしはただ、

その瞳を見つめる。


「俺、決めたから」

「何を?」


あたしが笑うと魁はにかっと歯を見せて笑った。

その笑顔は太陽なんかより全然眩しくて熱くて、あたしの瞳を焦がし、胸を溶かした。

あたしはその笑顔に惹かれ、見つめている向日葵なんだ。

太陽は自分を見つめる向日葵に向かい、光と共に言葉を放つ。


「爽専属の幼なじみ以上恋人未満の男になる」

「...は?」


暑さにやられてしまったのか、魁はいつにも増してとんちんかんなことを言ってくれた。

自分では良いこと言ったつもりになってるけど、全然だから。

全然響いてないんだから...!


「今日から魁はあたしと恋人になることを前提に幼なじみとして付き合う。ってことで合ってるよね?」

「あー。爽はがさつで乱暴で意地っ張りで、口調は荒いし、女子力も低い。

けど、底抜けに明るくて気が利くし、家事全般も出来る。相殺すればプラマイゼロ。
ま、無難にいいやつだよな。

ってことで、そういうこと」

「は?!何それ?!無難って何?!無難以上神様未満の天使だから」

「そういうこと言ってる時点で堕天使の方だよな」

「は~?!」