「山本、大丈夫か?顔色悪い気がするけど。帯が苦しいとか?」

「いや、そういうのじゃない。全然全然大丈夫大丈夫」


全然と大丈夫をそれぞれ2回も言ってしまう始末。

明らかに大丈夫ではないと悟られてしまった。

一体何を言われるのだろうとヒヤヒヤしていると、さつまくんがぎこちなく口を開いた。


「あんま気負わずにやって。オレのことは考えなくていいから。汚名返上したいとか、そんなん考えてないし」


なんだ...。

やはりそのことは気づいていたんだ。

そう、だよね...。

さつまくん、結構鋭いもんね。

見ていないように見せかせて、実は1番回りを良く見ている。

だから、他人の変化に即座に気づくことが出来るんだ。


「わたしは...楽しむよ。せっかくのステージだもん、全力で楽しむ」

「うん。それがいい」


そう言うとさつまくんは口をつぐんで顔を背けてしまった。

やはり、今日のさつまくんはなんだか様子が変だ。

そりゃあ人間だもん気分にムラがあっても仕方がないし、ましてやあんなことがあってから始めてのステージだし、緊張しない方がおかしい。

何か緊張を和らげる方法はないかな?

なんてことを考えながら窓の外を見ると、徐々に茜色が空色に覆い被さって来ていた。

赤と青の見事なコントラスト。

赤が青を徐々に飲み込んで行き、そのうち藍色へと変わり、空を侵食していく。

わたしはそのゆっくりとした変化をこの瞳でただ見つめていると、窓ガラスに映ったさつまくんと目が合った。