青い夏の、わすれもの。

「山本」


わたしの名を呼んだのは、さつまくんだった。

わたしはバレないように天井を見上げてから彼の方を向いた。


「最後はさつまくんか。よろしくね」


わたしがそう言うと、さつまくんはじっとわたしの瞳を見つめた。

わたしは慌てて反らしたけれど、絶対に目は充血していたから、バレてしまっただろう。

いや、でも、さつまくんのことだから、気付いていたのかもしれない。

確認のために瞳の奥を探ろうとしたのだ、きっと。


わたしが考えに耽っているとさつまくんが口を開いた。


「山本さ、大丈夫じゃないだろ?」

「えっ?」

「見てれば分かる。山本が山本じゃないってこと」

「わたしがわたしじゃないってどういうこと?意味不明だよ。わたしはちゃんとここにいる。ここにいて、ほら、今だってペンギンを...」


ペンギンを見ている......

そう言いかけたところで、さつまくんの手のひらが頬に触れた。

親指が優しくわたしの頬をなぞり、涙を消した。


「見てるとこ、違うだろ?ペンギン見て泣くやつがどこにいる?」

「......ここ。ここにいる」


わたしはもう我慢できなくなった。

涙が泉のように湧いてきて滝のように流れる。


「...バカ。そんなやつ...いないから」


さつまくんはそう言うと頬から手を離し、わたしの手首を掴んで歩き出した。

どこでもいい。

モノクロの世界から連れ出してほしかった。

わたしはその手を拒まず、その背を追ってひたすらに足を動かした。