ちゅんちゅんと小鳥の囀りが聞こえて、マニエルは窓の外を見た。
 マニエルが窓際に近づくと、小枝で羽根を休めていた二羽の小鳥はパタパタと大空に飛び立つ。その様子を暫く眺め、やがてとぼとぼとまた部屋の椅子に腰を下ろした。

 サイドテーブルに置かれた本の開き、また閉じてははぁっとため息をつく。
 昨日、マニエルが愛読する連載小説が遂に完結した。物語は主人公の騎士が最愛の乙女と結ばれて大団円となった。元恋人の王子と魔術師はそれぞれ別の生き甲斐を見つけ、悪役令嬢は恋に敗れる。

「私がこの乙女だったらよかったのに……」

 マニエルは冊子の表紙を眺めながら、小さく呟いた。この乙女はこれから先もきっと、いつまでも最愛の騎士様と寄り添って幸せに暮らすのだろう。永遠に幸せに……

 マニエルはジワッと涙がこぼれ落ちそうになり、それをハンカチで拭った。身から出た錆とは言え、マニエルはこの悪役令嬢に同情したい気分だった。恋に敗れて見知らぬ地に一人送られる彼女はどんなに心細いだろう。まるで自分の未来を見ているようだ。
 その時、トントンとドアをノックする音がして、侍女が顔を出した。

「お嬢様。ルーエン様がお越しです」
「ルーエン様が……」