「ルーエンさん……」
「ん? アイツは命には別状無いから安心して。ほら」

 一つのドアの前でルーエンが立ち止まる。スーリアはそのドアに視線を移動させた。

「アル、入るよ」
「──ああ」

 少しの沈黙の後、心地よい低音が耳に響いた。
 ゆっくりと開けられたドアの隙間から目に入ったのは、目にするたびに心が躍った水色の髪。椅子に座ってドアと反対側にある窓の方向を見ていたアルフォークがゆっくりこちらを向く。
 スーリアは、目が合った瞬間に、そのアメジストのような瞳が僅かに動揺したように揺れたのを見た。

「アル……」

 スーリアは部屋に入り、一歩そばに寄った。その姿を間近で見たときに、色々な感情がごちゃ混ぜになってスーリアの中を駆け巡った。ビーカーの中に垂らした絵の具を混ぜるかのように一気にごちゃ混ぜになったそれはさらさらと流れ去り、後にスーリアの中に残った感情は一つだけだった。

──会えて嬉しい。
 
 騙されたと怒った事も、沢山泣いたことも、傷付いたことも、全ての負の感情はこのただ一つに塗り替えられた。ルーエンの先ほどの様子から、スーリアはアルフォークが瀕死であることを覚悟していた。生きていてくれて、また会えた。それがただ嬉しかった。