浮き上がるような嫌な感覚が無くなり、ぎゅっと瞑っていた目をそっと開いた時、スーリアは見覚えの無い場所にいた。目に入ったのは簡素ながら清潔感のある白い廊下。その廊下を、やはり白のケープを纏った人達や、盥を持った侍女らしき人達がひっきりなしに動き回っている。

「ルーエンさん。ここは?」

 スーリアは困惑気味にルーエンを見上げた。自宅横の花畑に居たはずが、気付いたら知らない場所に居たのだから。ここがどこなのか、スーリアには全く予想が付かなかった。

「ここは王宮の医務棟だよ。治癒魔法を使う魔術師が怪我人の治療をしてる。もう殆ど全員終わってる筈だけど、効果が十分に得られなかった患者は安静にしている。治癒魔法って万能じゃ無いんだ。それは知ってる?」
「知っています」

 スーリアは頷いた。治癒魔法は万能では無い。だからこそ、スネークキメラに襲われたリアちゃんはすぐに治癒魔法をかけられたにも関わらず、そのまま亡くなったのだ。

「今ここには、重症で完全に治癒できなかった人達や、何かしら障害が残った人がいるよ。行こっか」

 廊下の奥へと歩き出したルーエンを見て、スーリアは嫌な予感が湧き上がるのを止める事が出来なかった。この先に誰がいるのか──そして、その人はどんな状況なのか──それを知るのは怖かった。