「なるほど。それで、結局会えなかったのだな? なんと言うか……タイミングが悪いな」

 エクリードはアルフォークから話を聞き終えると、はぁっと息を吐いた。

 昨晩から降り続く雨は益々激しくなり、外は嵐の様相を呈していた。激しい強風が吹き、大粒の雨が地面を強く叩きつけている。 

 昨日、アルフォークはスーリアに会いに行くと言ってレッドハットベーカリーに出かけた。ところが、以前スーリアに聞いたレッドハットベーカリーで働いている時間を狙って行ったにも関わらず、スーリアは居なかった。
 代わりにアルフォークを出迎えたスーリアの幼なじみのリジェルは、アルフォークを見るなり眉間に深い皺を寄せ、罵声を浴びせてきた。

 なんとか冷静に話し合おうと努めたアルフォークだったが、リジェルの様子を見て一旦引き下がった方が賢明だと判断し、最終的にパン屋を後にした。こんなところでスーリアの幼なじみと喧嘩したところで、どうしようもない。体格や体力、立場的に優位な自分が身を引くべきだ。
 せめてもと持っていった花束は店の軒先のバケツに入れたが、それをスーリアが見たかどうかは分からない。

「ルーから花の力が弱いと聞き、スーに何かあったのではと心配なのです」

 アルフォークは目を伏せ、胸元にいれていた紙の包みを取り出した。それを丁寧に開くと、中からは少し押し潰されたビオラが出てきた。スーリアが魔術研究所に納めている花だ。潰れてはいるが、みずみずしさは保っている。