尚も不平不満を訴えていると、大好きな人の顔が近づき、鼻の頭にふにっと唇が触れる。マニエルはまたもやキスされて、「フニャアー!」と悶絶した。頭を撫でられて、ストンと床に降ろされる。
 マニエルは今日も幸せに悶えながら、魔術研究所を後にしたのだった。

 帰り道、マニエルはまた薬草園に併設された花畑の横を通った。その時、話し声が聞こえてそちらに目を向けた。

「これが例の花畑? ただ花が植えられているだけで、なんだか地味ね」

 憮然とした表情でその花畑を眺めていたのは金の髪を結いあげた、少しだけキツそうな印象の華やかな美女。マニエルは花の影に寄ると、隠れて様子をうかがった。

「聖なる力なんて、出鱈目よ。女神シュウユの祝福を受けたのは初代国王よ。もし聖なる力があるならば、それはきっと私だわ。現に、今も聖魔術は王族に強く発現する。今まで花を育てたことがなかったからわからなかっただけよ」

 ツンと澄ましたままそう言った美女を、マニエルはよく見た。大きなアーモンド型の瞳はぱっちりとして睫毛が長く、肌は透けるように白い。頬はピンク色に色づき、信じられない程の美しさだ。