リアちゃんの時の記憶を探しても、この辺りで狼が出るという話は聞いたことがない。
 笑いながらアルフォークを見上げると、真剣な様子でこちらを見るアメジストのような紫の瞳と視線が絡み合った。スーリアの胸の鼓動がドクンとはねる。宮殿からは楽団が奏でる演奏が聞こえてきた。二人の会話が途切れ、沈黙が流れる。

 アルフォークはスーリアの横に置かれたバケツから一輪の黄色い花を手に取ると、スーリアに差し出した。

「? なに??」
「……間違えたかもしれない」

 アルフォークがバツが悪そうに花を引っ込める。その表情を見た時、スーリアはピンときた。

「私、ダンスの踊り方がわからないの」
「適当でいいんだ。楽しければ」

 アルフォークがホッとした表情で微笑む。

「こんな格好だし。作業着よ?」
「スーはどんな格好していても可愛らしい」