スーリアはバケツの水を地面におろすと、ふぅっと息を吐いた。

 雨が少ないと、花へやる水を水場から花畑までを運んでくる必要がある。
スーリアの自宅の花畑は家からすぐにあるからまだいいが、王宮はそうもいかない。薬草園の脇には専用の水場があるが、薬草園自体が広いのでそこからでもかなりの距離があるのだ。
 水は重いので、小柄なスーリアにとっては重労働だ。

 バケツの横に立ってひしゃくを手にすると、バケツの水をすくって花にやる。花弁は水をはじき、水滴がキラキラと光った。
 アルフォークやルーエンによると、スーリアの花には不思議な力があるという。そのお陰なのか、スーリアの花は害虫がつくこともなく、元気に育っていた。魔術研究所に卸すほかに、近々開催される国王陛下主催の舞踏会でも花を提供することになっている。
 スーリアは元気に育つ植物達を見て口もとを綻ばせた。

「あら、もう無くなっちゃったわ」

 スーリアはバケツを見て独り言ちた。いつの間にかバケツは殆ど(から)に近い。
 アルフォークが現れたのは、もう一度水を汲みに行こうとスーリアがバケツを持ち上げたときだった。