恵が言うことを全く聞かない体を強張らせたまま視線だけをその女性に向けていると、花を拾い上げたその女性と目が合った。その瞬間、その女性は信じられないようなものを見るように、零れ落ちそうなぐらいにその緑の目を見開いた。

「父さん、母さん、スーリアが目を覚ました! 信じられないわ!!」

 女性が叫ぶと少し歳のいった男性と女性が駆け寄ってきて恵を覗き込み、同じように驚愕の表情を浮かべた。
 男性は驚きすぎて近くにあった椅子にぶつかり椅子が大きな音を立てて床に倒れた。しかし、その男性はそんなことは全く気にしない様子で恵の片手を握りしめると嗚咽を漏らし始めた。
 横にいる年配女性は最初に恵に気づいた女性と抱き合って泣いていた。

 恵はどうやらこの人たちが自分のことを心配していて、今は自分が目を覚ましたことに喜んで泣いているようだということはわかった。
 でも、恵にとっては三人とも全く知らない人たちだ。しかし、先ほど与えられたスーリアの記憶を覗き、すぐに三人が誰のなのか理解した。

 この三人は、スーリアの家族だ。

 ──私、本当にリアちゃんの身体に入ったんだ。

 恵は自分がスーリアになったことを悟った。
 思うように動かない身体で、恵改めスーリアは唯々(ただただ)三人の様子を見つめることしかできなかった。