恵は持っていたほうきを店の軒先にぽんと置く。ちりとりは後にしよう。先に頼まれ事を終わらせようと豪華な装花の一つを持ち上げた。
 装花はかなり大きく、身長が百五十センチちょっとしかない小柄な恵は視界が微妙に遮られた。水をたっぷりと含んだオアシスはかなりの重みで足もとがふらつく。

 転んでせっかくの装花を崩しては大変だ。花屋の商用車は車道の向こうの公共月極駐車場に停められている。
 恵は転ばないように、足下に気をつけながらそろりそろりと足を進めた。恵が完全に足下に気とられたその時、悲劇はおこった。

 視界の端に勢いよく近づいてくるワンボックスカーが映ったと思った次の瞬間、キキキーというブレーキの音。ドンッという衝撃と共に恵の体は空中に浮き上がった。身体に走る鋭い痛み。

 恵は空中を漂いながら、散らばる花が雨のように降り注ぐのを見た気がした。