「こんなところで偉い騎士様がどうしたんだ?」

 落ち着いた低い声が聞こえて振り返ると、後ろには片手にバケツを持った中年の農夫がいた。麦わら帽子をかぶっているが、顔は日に焼けて赤黒い。
 アルフォークを見つめるその薄緑の瞳はスーリアを彷彿とさせた。

「あんたはもしかしてうちのスーリアを助けてくれた騎士様かい?」
「ああ、そうだが……。俺は王都の魔法騎士団長をしているアルフォークだ」

「やっぱり」と言って農夫は顔をくしゃりと崩して笑った。
「スーリアが話していた特徴によく似てたから。水色の髪で、えらい男前の騎士様だと聞いたんだ。私はスーリアの父親のベンと言います。あの時は娘を助けて頂きありがとうございました」

 ベンと名乗った農夫は麦わら帽子を取ると、アルフォークに頭を一回下げた。

「いや、それが俺の任務ゆえ礼には及ばない。ところで、スーリアはどこに?」
「スーリアなら、パン屋の手伝いに行ってますよ。もうそろそろ戻るとは思います」

 ベンは申し訳無さそうに眉尻を下げた。