水やりを終えて店の前でほうき掛けをしていると、近所のおばあちゃんが話し掛けてきた。
 恵はほうき掛けを一旦やめて、ほうきを持ったままで軽く会釈する。こんなふうに近所のお馴染みさんに誉めて貰えることも実は恵の密かな楽しみでもあった。

 歳の離れた妹が二人いる恵は、何かにつけて「お姉ちゃんなんだから」と言われ続けて育ってきた。両親に誉めてもらえることがあまりなかった恵にとって、近所の人達からのほめ言葉はむず痒くも嬉しいものである。

 恵はそのおばあちゃんと二、三言会話を交わしてからもう一度会釈して、またほうきを掛け始めた。冷たい風がピリリと頬を撫でる。ほうっと白い息を吐いてから、ちりとりを取りに店の中に入ると母親に声をかけられた。

「めぐー、これを車に運んでおいてくれる?」

 恵は母親の声が聞こえた方向に顔を向けた。そこには新装開店用の豪華な装花が二台置いてあり、どこかにこれから車で届けに行くようだ。

「うん。わかった」