「紅月ちゃん、辞める事なんてなかったのにね」
 「あぁ。体の不調なら、ゆっくり休んで元気になってきたら戻ってきてくれたらいいのにな」
 「そうよね。けれど、本当に大丈夫なのかしら。突然倒れちゃうんですもん」
 「病院では特に異常は見られなかったが、疲労はあったようだな」
 「そんな……。早く良くなるといいわね」

 
 「紅月が倒れた………?」


 弁当屋の2人の話しでは、紅月が倒れて医者に診てもらったという事。そして、紅月が弁当屋の仕事を辞めたという事だ。なぜ辞めたのかも気になるところだが、今はそれどころではない。
 話しを聞く限りだと、紅月はここで倒れてしまい、店の男と医者まで行ったのだという。そこまで酷い状態だったことに驚き、そして戸惑ってしまう。

 紅月はどこにいる?
 病院だろうか。いや、異常はなかったという事はきっと帰宅しているのだろう。
 まだこの2人に詳しく話を聞きたかったが、自分が欲しい情報を上手く話すかはわからない。そんな時間はもちろんないし、彼女の無事を確認する方が先だ。

 矢鏡は急いで、紅月の家へと向かった。
 無駄な力を使いたくはなかったが、紅月がどうなっているかわからない。一刻を争う状態ならば、1秒で惜しい。矢鏡は紅月の元へと向かう速さを増して、あっという間に家へと到着した。






 「紅月?」
 「…………」


 矢鏡が紅月の家に戻ると、紅月はベットで横になっていた。
 だが、いつもと様子が違っている。胸は上下に激しく動き、顔は真っ青で、呼吸も苦しそうに口を開けていた。おもちろん、彼女は寝ているようで瞼を深く閉じている。そして、時々苦しそうな声を上げている。
 矢鏡は、紅月に駆け寄り、体を揺すって彼女を起こした。紅月がこのまま遠くにいってしまうのでは。そんな恐怖に襲われたからだ。

 紅月が死んでしまう。
 目の前から消えてしまう。言葉を交わす事も、ぬくもりを感じる事も、彼女の笑顔を見れなくなってしまう。


 また、俺は彼女を失ってしまう。


 「……また?」