「呪いを体内に取り込んだというのだけでも面白いのに、神であるおまえが人間の女と結婚までしたなんてな。これ以上愉快な話はないよ。最後まで話を聞いてみてよかった。今度の出雲大社で神々が集まる時は、きっとお前の話でもちきりになるだろうな」
 「やめてくれ。あの集まりは苦手だ……」
 「みんなうらやむと思うがな。人間との結婚などそう簡単に出来るものじゃない。まず神が見える人間に出会わなければいけないし、その女に惚れるかもわからん。そして、神という人外の存在と結婚しようとする女というのもなかなかいないだろうからな。人間と神の子どもなど、聞いたこともない。後々まで面白い話が続きそうだ。あと数百年はこの話で盛り上げれる」
 「人を話題の種にするな」


 とっつきにくい高貴な神様だと思っていたが、話してみるとそうでもないようで、先程から矢鏡の前で笑い続けている。どうやら、万年生きていると暇な日々なのだろうか。矢鏡と紅月の苦境を笑いものにされるのは癪であったが、龍神の知恵を借りれるのならば、我慢しなければならない。
 ふーっと長い息を吐いた後に、龍神を見つめる。水のように青々と深く、それでいて澄んだ色の瞳がひかり、こちらを見返す。


 「面白い話の礼だ。おまえに、私の知っていることを教えよう。神である存在のものが、人間を呪う。そんな事は禁忌である。ありえないし、あってはいけないことだ」
 「なんだ、と」
 「当たり前であろう。神々は人の信仰なくしてなくして存在できぬものだ。誰一人自分を知らなければ、存在意義がなくなり消滅するのであろう。おまえが必死になって女を助ける理由と同じだ。人間なくして神はいない。そんな人間を神が呪うなど、ありえないのだ。罰を与えたり、地獄に落とす事は出来ても、呪いは自分勝手な都合にすぎんからな」
 「自分の都合………」
 「あぁ。その蛇神とやらが何か恨み辛みがあったのだろう?だから、呪った。いや、もしかしたら………」


 そう言葉を残した後、また龍神は言葉を止めて考え込んだ。その間、矢鏡は彼の話を思いし返した。