二十、




 矢鏡は駅へと向かっていた。いつも、紅月が通勤で使っているので、そんな彼女を迎えに行っている矢鏡にとっては見慣れた場所だ。
 電車の乗り方を覚えたので、小判を窓口に置いて乗車する。無銭乗車でも誰も気づかないはずだが、それは忍びないのでお金は置いておく。きっとしばらくは無料で乗れるぐらいの金額にはだろう。しばらく電車に揺れてついた場所は閑静な住宅街だった。その住宅街に目的のある場所
 平日の午前中とあって、静かな場所だ。どんよりとした梅雨空のためか外を歩いている人は少ない。矢鏡はゆっくりと下駄を鳴らしながら歩く。すると、どんどんと道が細くなる小道が現れる。そこには、少しずつ雑草がはれたコンクリートが目立つようになってくる。その先には住宅街の中にポツリと残された小さな森が目の前に見えてきた。その入口には真っ赤な鳥居が出迎えおり、そこをくぐると長い階段が続いている。その階段の脇には、一定間隔で真っ赤なのぼり旗が並んでいる。静かな場所だが、雰囲気は賑やかだ。
 入口の鳥居の中央には『龍神神社』と立派な金の文字で書かれている場所だ。

 その場所に矢鏡が足を踏み入れようとした時だった。


 「消えかけている弱き神が、この場所に何ようだ」
 「……龍神か」

 声だけその場に響いているが姿は何も見えない。
 姿を見せる必要はない相手と判断したのだろう。その傲然たる声から、矢鏡を見下しているのがわかる。それもそのはずだ。こんなに立派な神社のだ。信仰心が厚い人間も多く、参拝者もひっきりなしに来るのだろう。神力も強いはずだ。廃れ嫌われている矢鏡神社とは比べ物にならないはずだ。


 「用件があって参った。少し知恵を貸してくれないだろうか」
 「人間から神になっただけの弱きものが、私を頼るか」
 「弱い者だからな。頼らねば生きていけん」
 「人間と同じだのう」
 「元人間だからな」
 「……よかろう。弱き神が何を求めているのか気になる。話してみよ」