「余計な事まで思い出してしまったな」


 ため息をつきながら、鏡を見つめた後、着物の中にしまい込んだ。割れたとはいえ、あの白蛇を倒せたのだから大切にしなければいけない。死んで神となった後も何故か矢鏡の手元にあったのだ。大切にしたからだろうが、今またあの蛇と対峙する事になるかもしれないのだから、また役に立つかもしれない。


 そして、今、向かっている場所も紅月を助けるために訪れる事を決めたのだ。
 が、その時に頭の中に声が響いて来た。「神様が紅月ちゃんを助けますように」という、肇の声だ。昨日、矢鏡の神社を参拝すると言っていたばかりなのに、もう矢鏡神社を訪れたのだろう。約束通り参拝したらしい。それと同時に神力が体に巡ってくるのを感じる。1人分の参拝では微量だが、ある事にこしたことはない。それに肇の願いは、矢鏡の願いでもある。


 「叶えるさ。必ず、紅月を……」


 矢鏡は一人言葉を落とす。が、周辺の人々はまったく気づいた様子もなく歩いている。その人の波に混ざり、矢鏡はある場所へと足を進めた。