「俺が死んだ後だから詳しくはわからんけどな。蛇神だと祀られていた巨大な白蛇は化け物だと言って村人たちは蛇神信仰を捨てたんだ。実際、人身御供を止めて、巨大な蛇が死んだ後は天候にも恵まれて、安定した作物が育つようになったらしい。けれど、数十年後に大災害が発生した。白蛇が住んでいた川が氾濫しそうだ。そして、2週間近く川の水が村を襲い、水が引いた頃にはいたるところから蛇の死骸が落ちていたそうだ」
 「そんな事って……」
 「それを見た村の人達は、蛇神様が怒っている。と思ったらしくあの白い巨大の蛇はやはり神様だと言い始めたんだ。そして、その蛇神を殺した俺は悪者に降格ってわけだ」
 「……そんな」
 「仕方がないことだ。本当にただの蛇だったのかもしれないが、結局は祀られた事で俺と同じように神様になったのだからな」
 「そうだけど、悪い蛇が神様になるって……」
 「悪鬼を祀っているところだってあるんだ。不思議はないさ」


 全てを受け入れたように穏やかに話す矢鏡。
 いや、諦めている。そんな風に見えてしまい、紅月は心が苦しくなった。
 けれど、矢鏡に救われた人は確実にいる。それは事実なのだ。


 「その女の子は、矢鏡様こそ本当の神様だと信じているはずです。もちろん、私も」
 「……あぁ、そうだな」


 矢鏡は、目を細めて嬉しそうに微笑み、「お前の方が優しいな」と、いままで一番優しい声で褒めてくれる。
 話の途中で矢鏡の瞳が何度も潤い、光っていたのに紅月は気づいていた。
 どうして、矢鏡の瞳は金色なのだろうか。

 今度、彼に聞いてみよう。そう思いながら、雲の間から除く月を、彼と一緒に眺めた。
 あんなに強く降っていた雨は、もう止んでいた。