十五、





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 「じゃあ、矢鏡様はその蛇神様を倒して、女の人を助けたんですね。だから、神様として祀られた……」

 紅月は話を聞きながら何度か涙が溢れそうになった。
 矢鏡が人間だった頃に、そんなにも辛いことはあったとは、知らなかったのだ。現在は昔ほど見た目の偏見はなくなったが、どうしても差別などは残っている。それが辛くて心を痛める人は沢山いるし、見た目の事で傷ついた経験は、ほとんどの人間が経験しているはずだ。それが、昔はもっと酷かった。想像するだけでも辛いのだから、現実はもっと過酷だったはずだ。銀髪をもつ矢鏡は独りで生きてきたはずなのに、人に傷つけられてはずなのに、どうして優しくなれるのだろうか。
 たった一人の女の子が矢鏡の気持ちを明るいものにさせたのか。そう思うと、紅月の心はほんのり温かくなってきた。

 けれど、どうして神様として祀られたはずの矢鏡神社は、今となってはボロボロになっていたのか。それに今日会った老婆の「蛇神様」という言葉。先ほど矢鏡が語ってくれた過去の話にも出てきた名前だ。偶然には出来すぎているので、同じなのだろう。
 彼にどう聞けばいいのか。紅月は言葉を濁す。
 それを見た矢鏡は、少し苦い顔をしながら大丈夫だ、と言わんばかりに紅月の頭を軽く撫でた後に流れるように髪をすいていく。まるで手で遊ぶように、紅月の髪に触れながら話を進め始めた。