「俺のところでは暮らせないし、俺はおまえを助けるつもりなんて、さらさらないぞ」
 「山男さん、少しだけでもいいから」
 「ダメだ。お前は俺と一緒にいても今以上に不幸になるだけだ」
 「そんな事ない!」
 「これを見ても同じ事が言えるか」
 「え」

 べっとりと濡れた薄汚れている頭巾を頭から外す。
 その瞬間は手が震えてしまいそうだったが、ここで不安になっている所を感づかれてはいけない。指に力を入れる事で、何とかその細かい震えを止める。
 濡れた銀色の髪が額や首にくっつく。髪を長くしていると頭巾に入らないので小まめに着るようにしているが、水か過ぎると、前髪など隠れないので、全体的に男にしては長い髪だった。人前で見せるのはいつぶりだろうか。そう考えると家族以外は、子どものころの川遊びの時だっただろうか。それ以外見せたことがないのだ。緊張するにきまっている。

 目の前の彼女は驚きのあまり目を見開いている。
 それはそうだ。銀色の髪を持つ人間など見た事がないだろう。
 妖怪だと思うか。呪われた人間だと思うだろうか。きっと、化け物だと表情を歪め、矢鏡を罵り、逃げ出すはずだ。そして、もうこの場所にはこないだろう。あぁ、他の村人には話すなと脅しておかなければいけない。ばらされては、矢鏡の居場所がなくなる。でも、もし村人が押し寄せてきたとしたら、また違い土地に住めばいいだけなのだ。
 今はこの女を遠ざける事が最優先なのだから。


 「やっぱり神様だったのね」
 「な」
 「こんな綺麗な鈴のような色、見た事がないわ。銀色、いいえ、星のように輝いているから、星の色かしら。神様はこんな姿をしていらっしゃったのね」
 「お、おまえ、こんな人間をみて、まだ神様だというのか?!おかしいだろう。化け物でしかない」
 「化け物?こんなに綺麗な色なのに?神様でも化け物でも何でもいいわ。私、今すっごい感動しているの。こんなに綺麗な絹のように綺麗な髪初めてみたんですもの。隠すなんてもったいないわ。すっごい素敵よ」

 興奮した様子で、ずいずいと矢鏡に近づいてくる女を、矢鏡はそれこそ化け物でも見るかのように驚きながら、ゆっくりと後退していく。けれど、すぐに壁に背がついてしまう。
 女は矢鏡を見上げながら、うっとりとした瞳のまま「綺麗ね。もっと見せて」と、髪に手を伸ばした。

 「さ、さわるなっ!!」
 「あ………」