そんなバカな。神様がこの世で生活している?そして、人間を贄としている?
 そこまでは信じられない話だ。
 けれど、そこまで思ってあの日の光景を思い出す。
 そういえば、あの日川へ向かった時、白無垢の少女の遺体だけがなくなっていた。蛇神が連れて行ったのだろうか。いや、死体だ。もしかして。


 「だから、私もその場所に行って本当に蛇神様がいるのか確かめたいの」
 「行ってどうする。本当に蛇神がいたとしたら、どうなるかわからないんだぞ」
 「どうせ、死ぬんだから。確認ぐらいしたいの」
 「さっきからそんな話をしてるが。どういう事だ?病気なのか?」
 「ううん。そうじゃない。元気だけど」


 俯いたその女は太ももの上に置いていた手をギュッと握りしめる。着物の綺麗な花が歪む。ぐしゃりと踏まれた花のようだ。


 「次の人身御供は私なの」
 「次って。また、やるつもりなのか?!あんな事を……」
 「うん」
 「天候だって安定してる。やる意味なんかないだろ?」
 「近々、また雨に変わるらしいの。私のおばあ様がそう告げている。おばあさまは、気候の変動を察知することが出来るんだけど。また雨の日がしばらく続くらしいわ」
 「まさか、家系にそんな力があるから選ばれたってことか?」
 「それはあるかもしれない。そういう摩訶不思議な力をもっている人間は神に近いとされているので」