縁側に座りながら、木々の間から見える太陽を見上げる。
 零れ日の光がさらに木々の隙間から落ちてくる。それは優しい光となり、地面や矢鏡たちを照らす。穏やかな風に吹かれると、晴れの日は落ち着くなと改めて感じさせられる。そして、自然の笑みも零れてくる。
 だが、視線を戻すと女の表情に笑みはない。あんなに綺麗だと思っていた瞳も今は闇が下りていた。


 「それは妹のおかげなの」
 「それは、あの崖から飛び降りた……?」
 「そう。あれは死と引き換えに晴天を貰うための儀式。人身御供」
 「なッ」


 噂では聞いたことがある言葉だ。
 神へ人間を生け贄として捧げることだ。その理由は様々だが、この村のように天災が続いた時に、村が全滅する前に数人を犠牲にして命を捧げる。それと引き換えに平和な日々を神から貰う。嘘だと思っていた。そんな事ありえるはずがない、と。
 けれど、実際は矢鏡が見たように少女が命を捨てたのだ。よくよく思い出してみれば、あの白無垢の少女が崖から飛び降りた日から晴れの日が続いているのだ。
 それは人身御供としてあの少女が命を犠牲にしたからなのか。
 そんな話、信じられない。そう思いつつも、目の前の真剣な表情の女を見てしまうと信じざるおえない。


 「神様って何なんだ?」
 「え、信じてくれるの?」
 

 矢鏡がすんなりと女の話を信じたからだろうか。
 女はぽかんとした表情で、矢鏡を見ていた。そして、「馬鹿にされるかと思ったわ」と、ほっとした表情を見せる。きっと、この話をするのにも勇気がいったのだろう。「妹が人身御供で死んだ」など、信じられるはずもないだろう。
 けれど、それを理解して、一人の少女の死なせて安寧の日々を得ようとした者がいるのだ。
 もちろん、この女とその妹の両親もその一部だろう。

 「実際に崖に飛び込んでる現場を見てるからな。信じるしかない」
 「うん。妹の命のおかげでこうやってお天道様に会えてる。神様にすがるしかないのだから」
 「その神様ってやらが、この山にいるのか」
 「さっき話してた。蛇神様。お父様がそう話しているのを聞いたわ」
 「蛇神?聞いたことがないわ」
 「この山に川があるでしょ?そこの奥底に隠れた洞窟があるらしくて、そこにいらっしゃるらしいわ」
 「神様が?この世で生きているのか?」
 「蛇神様っていうぐらいだから、蛇なんじゃない?」