矢鏡が話さない限り教えるつもりはないらしい。
 仕方がないので、少し前に目撃したあまり思い出したくないあの白無垢の少女の話をする事にした。ゆっくりと歩き、女の隣りに腰を掛ける。もちろん、すぐ傍に座れるほど女に慣れてはいないので、人一人分ぐらいの間は空けれしまう。


 「もう半月ぐらい前だが、朝早く、山に鈴の音が響いて目を覚ましたんだ。不思議に思ってその後を追っていくと、狐の嫁入りのように真っ白な着物に、白無垢の女が行列をなしていて、そのまま山奥へと向かっていたんだ。そして」
 「その後はどこへ向かったんですか?」
 「山奥の崖だ。そこまで行くと、男がお経のようなものを読み始めて終わった後に、白無垢の少女が崖から飛び降りたんだ」


 白無垢の少女が最後に何を言ったのか。それをこの女に伝えるか迷ったが、矢鏡は止めた。
 言葉を聞いたわけでもないし、口の動きだけで判断したので正確ではないと思ったのだ。それに、人を呪うような言葉を伝えるのも気が引けた。知り合いならなおの事だ。


 「そう、ですか」
 「知り合いか?」
 「私の実の妹です」
 「え……」


 彼女の黒々とした目は揺らいでいた。ここで初めて彼女は動揺した。
 それは当たり前の事だろう。家族が死んだのだから。けれど、彼女は予測はしていたのだろう。取り乱す事なく、納得した様子で頷いただけだった。けれど、瞳は先程よりも潤いを増しているのは気のせいではないはずだ。


 「私は村にある寺の娘なの。今回、あまりにも天候不順が続き、作物は育たず、病気持ちの人達は病状が悪化したりと、人々の暮らしに影響が出始めているの。もちろん周りの村もそうなのですが、私たちの村では土砂崩れや洪水などもあり、被害は甚大なんだ」
 「あ、あぁ。確かに、ここ数年は雨の日ばかりで森の様子も変わったな。水を吸いすぎて、病気になる木も多かった。カビも発生しやすかったし、あまり体にはよくないだろうな。俺が肉を売ると高値で売れたのも、食べ物がないからだろうな」
 「けれど、最近は晴れの日が多いと思わない?」
 「あぁ。やっと太陽が見れて安心するな。村にも活気が戻って来たじゃないか」